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レスポンデント条件付け

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ロシアの生理学者「イワン・パブロフ」。

ドッグトレーナーなら誰でも知っている、犬のヨダレの実験を行ったスゴい人です。

犬にベルの音を聞かせてから食べ物を与えるという作業を繰り返す実験で、食べ物を与えなくても、ベルの音を聞かせるだけでヨダレが出るようになる、ということを発見しました。本来ヨダレが出るような刺激ではない「ベルの音」という刺激と、その刺激とは無関係の「ヨダレが出る」という反応とを結び付ける作業(条件付け作業)が可能である、という発見です。

「何がスゴいのだ? ヨダレが出たからといってそれが何だ? 雑巾で拭けば終わりじゃないか!」……そう思われましたか?

当然ながら、パブロフは犬のヨダレが出ること自体に学問的な意味を見出したわけではありません。「ヨダレが出る」という無意識に起こる反応を意識的にコントロールできるということは、無意識に起こる情動(喜びや悲しみ、怒りなど)を人がコントロールできる可能性につながります。そうすると、人も犬も自らの情動で自らの行動を選択することが多いので、「情動」だけでなく「行動」をもコントロールすることにつながります。つまり、この条件付け作業で人の行動を変容させることができる、そんな「行動変容をもたらす学習理論」の入り口を発見したわけです。

スゴイと思いませんか?

それが犬の問題行動改善にも活用できないものか、しつけの現場では模索が続いています。

対呈示における時間的関係

パブロフの実験では、「ベルの音」と「食べ物」という2つの異なる刺激を用いました。条件付け作業の中でこの2つの異なる刺激を与えることを「対呈示」と言います。ある特定の反応を生得的(先天的)に誘発するわけではない刺激を「中性刺激」、生得的にその反応を誘発する刺激を「無条件刺激」と言うのですが、ここでは、「ヨダレが出る」という反応に関して「ベルの音」は中性刺激、「食べ物」は無条件刺激となるのです。

条件付け作業を行う時には、この中性刺激と無条件刺激を与えるタイミングがその難易度に大きな影響を与えるとされています。

タイミング別に、先に中性刺激を与えてから無条件刺激を与える作業を「順行性条件付け」、中性刺激と無条件刺激を同時に与える作業を「同時性条件付け」、無条件刺激を与えてから中性刺激を与える作業を「逆行性条件付け」と言います。パブロフの行った実験は、ベルの音を聞かせてから食べ物を与えていますので「順行性条件付け」ですね。

自らに置き換えて考えてみてください。毎日毎日、美味しいケーキを食べてからベルの音を聞かされるのと、ベルの音を聞かされてから美味しいケーキを食べるのでは、ベルの音に対する期待が異なるかどうかですね。美味しいケーキを食べた後のベルの音は、いわば「ただの音」もっと言えば「余韻を損なう雑音」に過ぎないと感じるのではないでしょうか。

学習心理学でも、順行性条件付けが同時性条件付けや逆行性条件付けよりも条件付け作業の結果が早く現れると結論付けされています。

わが家にいたビーグル

私が子供の頃に飼っていたビーグルは、お風呂の湧く音が鳴ると興奮して部屋の中を走り回っていました。なぜなら毎日その音の後にご飯がでてくるということを経験していたからです。知らず知らずのうちに条件付けされていたんですね。

条件付けをする時のポイントは先ほど申し上げたように「反復と対呈示」になります。順行性条件付けになるよう気を付けながら、何度も繰り返し対呈示することがポイントです。上手く条件付けできない場合は、対呈示のタイミングが間違ってないか、反復しているか、といった点を考えてみると良いかもしれません。裏を返せば、そのどちらかを外すことで、条件付けを回避することができるという事にもなりますね。私の飼っていたビーグルの場合であれば「お風呂の湧く音の前にご飯をあげる(逆行性)」や「毎日ランダムな時間にご飯をあげる」といったことです。そうすれば、あの部屋の中での大騒ぎもなかったかもしれません。

また、基本的に、新しい事を学習させる為には一定の時間内に反復をすることが望ましい、1回目と2回目の時間が空くほど学習の定着は時間がかかる、とされています。私の飼っていたビーグルの場合、毎日とは言え条件付けされたのは夕方だけですので、反復の時間的間隔としては開きすぎています。となると、条件付けされにくかったはずです。でもお風呂の沸く音で興奮するという条件付けは成立していましたので、あの子にとっては、ご飯をもらえる期待値が私たちの想定をはるかに超えて大きく、反復の間隔が伸びたとしても条件付けされやすい傾向をもっていたのかもしれません。

問題行動の解決

日常生活においては、犬が勝手にあるいは人が無意識のうちに条件付けしている行動はたくさんあるのだろうと思います。それが、もし人にとっての問題行動だった場合、その原因となる刺激を探し当ててその刺激を取り除くことで解決に導くことになる可能性もあります。もちろん、犬だってロボットではありませんので、色々な事を感じてあるいは考えて生きているのだと思います。行動変容法としての条件付け作業は一つの問題行動解決策のヒントにはなるのでしょうけど、私たちドッグトレーナーは、それですべてが解決できるとは思わないことですね。

言葉でコミュニケーションをとれないからこそ、私たちは、犬の行動をつぶさに観察して、何がその問題行動の原因なのか、その行動はどんな気持ちに基づいているのか、などを把握し、その上で適確に解決に導けるようにならなければならない、と、改めて思いました。

プロフ

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