ウィジードッグクラブ

犬のしつけと訓練

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系統的脱感作法

しつけ教室では、犬の問題行動改善について1回で目的を果たせることはほとんどありません。それは、「しつけ」は必然的に時間がかかるものだからです。

例えば、大型犬を見たら吠えてしまう小型犬をほえさせないようにする「しつけ」を例にあげてみます。前提として、吠えるのは過去の何かしらの原因による不安が理由であることが明らかである、ということと、その不安を取り除くためにその不安を与えて馴れさせる方法を選択する、という2点を示しておきます。

不安を与えると言っても、普通のドッグトレーナーは、この小型犬をいきなり大型犬に会わせるようなことはしません。確実に吠えてしまう、つまり失敗を誘発するからです。まずは遠い距離で散歩をしている犬を見せたり、Youtubeで犬の吠え声を流したり、といった小さな刺激を与えながら、人の声や手による快刺激を与えることから始めます。犬の様子を見ながら徐々にその刺激を強くしていき、吠えという失敗を発生させないよう、最終的に「大型犬の存在」に馴れさせていきます。「系統的脱感作法」と呼ばれる方法です。

フラッディング法

ウィジードッグクラブのしつけ研究会で俎上に載せた動画があります。前回のコラムでも取り上げた、フランスのドッグトレーナー、エルベ・プピエ氏が秋田犬をしつける動画と同じシリーズです。秋田犬は見慣れない人に吠えて攻撃しようとする問題行動を抱えています。この動画では、エルベ氏は人に馴らすために徐々に刺激を与えるのではなく、ある程度強い刺激をいきなり与える方法を実践しています。曝露法の一つ「フラッディング法」というものです。

動画をご覧ください。

動画の8分10秒からの映像を見てみましょう。

エルベ氏は犬を落ち着かせると、その犬の周りに人を集めました。その人数は5人でした。犬は高度に緊張しています。5人は一度離れ、すぐに今度は7人が集まります。

エルベ氏はこれだけの人数が集まった状態でも、犬に吠えさせない自信があったのでしょう。吠える可能性を事前に想定していたからこそ、その予兆ともいえる「唸り」が出た瞬間にタイミングよく制止することができています。私なら、犬の反応=失敗を恐れるがあまり、1人ずつ近づけるようにしたと思います。

次に動画の12分30秒からの映像をご覧ください。

今度は1人の女性が犬に近づきます。女性は犬の頭、耳、背中、また耳、背中と次々と体の部位へと触れていきます。攻撃的な反応を示すことはあっても、エルベ氏がその都度制止していくことで動画の15分6秒の段階では、女性への犬の反応はなくなっています。

エルベ氏は、強めの刺激を用いても、つまりこの秋田犬にフラッディング法を採用しても、適切な対応をしていけば短時間で反応が消える、と予測できていたのでしょう。

普通、「フラッディング法」では、犬の自発的な「馴れ」に期待します。しかし、エルベ氏は声や手などによる制止を利用しているんですね。その制止が犬にとっての「嫌悪刺激」なのか「快刺激」なのかはよくわかりません。叱っているようにも見えるし、なだめているようにも見えます。「快刺激」なのであれば、いわゆる「逆制止法」の一つと言えますし、「嫌悪刺激」だとすれば、罰を与えることによる「正の弱化法」と言えます。いずれにせよ、この秋田犬との間によほどの信頼関係がないとできない方法だと思います。適切なタイミングで、意思を伝えるやりとりを何度も重ねた結果なのでしょう。

どちらも時間がかかる

系統的脱感作法は、その不安を取り除くのに時間がかかり、フラッディング法では時間がかからない、だから、できることならフラッディング法の方が効果的……一見、そう思えますが、本当にそうでしょうか? 私は必ずしもそうとは思わないのです。

刺激に対する反応は元に戻ることがあります。早い「フラッディング法」が遅い「系統的脱感作法」よりも早く元に戻る可能性もあります。だから、できるできないにかかわらず、エルベ氏の採用するしつけ法を、問題行動犬の改善法として手放しで推奨するわけではありません。

不安を抱える犬に対して、どの程度の刺激をどの位の時間入れたら反応が消えるのか? それは数値化できない難しい問題ですが、ドッグトレーナーとして犬のしつけに携わる人間にとって、常にその判断をしていかなければいけないわけで、飼い主さんを問題行動の悩みから解放させるためには、専門家である私たちが、犬をよく観察して、適切な刺激を判断できる力を身につけていくことが宿命でもあると思うのです。

いずれにせよ、とどのつまり、現実的には「しつけは時間はかかる」ということになると思います。犬はロボットじゃありませんから、当然と言えば当然ですよね。

プロフ

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